nishikien’s blog

お茶に纏わる事柄をつらつらと。

私の仕事

一杯のお茶。そのひと口に、人の心は動く。

ある武道家は知ってしまったからにはと背筋を伸ばして日本茶カフェの店頭に立つ。

ある外国の若者は職を辞してでも日本茶の世界に身を投じ、世界を飛び回る。

ある職人は茶を楽しむ為の道具に心を込める。

ある者は少しでもその姿に触れたいと険しい山道を登る。

山の茶園、慣れない山の作業の合間での小さなお茶会。そのお茶の生まれた土地での一杯の茶。
たなごころを伝わる温かさとふわりと薫る茶の香り。
止まる時間の先にある笑顔。動き出す時間。
自然とささやく様に、美味しいだけじゃないとつぶやく声。
山の茶園、その一杯の茶。

ある者は一杯のお茶が人生を変えることがあると。

ある者は日本に来てよかったと。

一杯の茶が開く日本茶の扉。
そんなお茶を私は伝えたい。それが私の仕事。

 

存在しない品評会茶

実際の話からすれば「全国品評会」やそれに類する基準の出品茶は一般的に流通する茶の原料となる荒茶とは乖離した製品です。その最も顕著なのが「深蒸し茶」とされたお茶でしょう。

通常に流通している「煎茶(普通蒸し)」「深蒸し煎茶」などは生産者が自己申告で作っているもので基準はありません。

これが普通蒸し?と首をかしげるような物はよく見かけます。一般向けに販売されている茶は色を意識して破砕されたお茶を混ぜていることもあります。
販売品は蒸し製の緑茶で形状のある製品と粉状になった製品くらいの違いしかないのが現状です。

普通蒸しとされた製品よりも蒸けていない、青臭くて苦味のある深蒸し茶は少なくありません。

この様な状況故に、品評会のお茶は乖離せざるを得ないのです。品評会は荒茶の製造基準を揃える為のものである事に気づければ容易に理解出来ます。

さて、生産の現場を見れば、この流れが変わることは無いでしょう。鮮度感と水色に依存した製品づくりの方が生産効率は高く、また、製茶機械が大型化しその方向へシフトしたのはもう過去のことで、今更の方向転換は出来ない。これは何もお茶に限ったことでもありません。

品種ごとの差を感じなくなり、どこでも同じお茶が作れるようになれば、生産時期は早ければ早いほどいい。年間の平均単価が三桁/㎏でも継続生産が出来るような経営。園地から荒茶製造までを含めて工業製品としての「茶」を目指す。

加えて先日の碾茶や抹茶に関しての基準緩和のニュースは茶の買い手が、茶業者から食品関係商社や食品メーカーに変わっていく事も表しています。いよいよ、苛烈な戦いとなるのが感じられます。

そこに巻き込まれないようにするにはどうするのか?

それこそが中山間地生産茶のテーマであり、同じ方向での勝負では勝ち目は無いことは誰でもわかることです。元来、いいモノとは沢山は出来ないモノです。それが手作りに近くなればなるほどです。メインストリームには端からなる筈がない。これは、今までの茶の歴史を振り返っても変わりません。

農薬を使うこと

過日、南洋紅茶からは残留農薬が検出されないのですよとのひと言がありました。
日本茶中国茶台湾茶からは基準以下、基準以上は別にして検出されます。
 
何故なのかを考えた場合、製造されている紅茶の9割近くはブロークンタイプとなり、ティーバッグなど高品質なものではないことなどが理由のひとつではと考えられます。
 
農薬は資材であり、タダでは無く噴霧にも労力と時間が掛かります。そして、広大な面積と気候は摘採と製造が連続的にされていること。
安価なものに費用は掛けないのはどの世界でも共通です。
 
以上を念頭にして考えてもましょう。
恒率乾燥が必須となる高品質な烏龍茶や製品の美しさが製品の価格に直結する中国緑茶などは原料となる茶葉の品質が問われます。
 
虫害や病変による新芽を少ないようにするにはどうするのか?方法は3つです。
 
①病変や虫害などの被害葉は摘まないようにする。
②防除などの管理によって病変、虫害を防ぐ
③技術としてオーガニックが出来るようにする

①と③は技術と経済的な面で非常に困難です。②が最も現実的ですが、農薬の希釈率や使用から摘採までの期間を守ることなど「生産者」の理解と使用方法を守る部分が必ず必要になることを忘れてはいけません。
 
防除履歴や防除の方法、製品の残留成分の確認もセットとなれば慣行が最も高品質になるのは本来、当然の流れです。

 

ただのひとりも。


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これまで試飲販売などを通じて、時折「有機栽培のお茶を」とお声をお掛けいただく事があります。私もJAS有機や二者認証の無農薬の製品などを取り扱っておりますので、そちらをご案内しますがその際に 「お客様の安全に関してだけなら有機栽培である必要はありませんよ。そもそも有機物を直接、植物が吸収するわけでもありませんし山間地生産の一番茶などは摘採前の防除の回数は一回、もしくはしていません。防除後2週間は摘採しない事になっていますので安全性においては問題ないものですよ。」 とお伝えします。 「知っています。私の事では無く生産者の農薬被ばくを減らし、出来る限り環境負荷を減らした農産物の生産が出来たらと思っていますので有機栽培茶を買いたいのです。」 とお話しくださる方は残念ながら、これまでただの一人もいらっしゃいませんでした。

有機栽培の農産物が特別に美味しいかと言えばそんな事はなく、効率的な流通から外れた産直などで手元に届くまでのリードタイムが短い場合などの「鮮度が高い故の美味しさ」を有機だからと勘違いのしている方が多いでしょう。乾物の茶であれば言わずもがなです。(お茶に関して言えば有機栽培故のキャラクターは生まれますが長くなりますので店頭やセミナーなどでお話しします。) わが身可愛さは分からなくもありませんし否定も致しませんが、闇雲に恐れてその先にオーガニックを信奉するのは感心出来ることではありません。

作る側の「有機無農薬だから虫食いでもしょうがない。有機栽培だから美味しくなくても。」は通用しません。それはお客様にとってはただの迷惑です。

写真は2014年5月に撮影した静岡市山間の有機栽培茶園です。立地条件や施肥、更新などを工夫し慣行の園地と比べても全く遜色ない園になっています。

 

無農薬、有機栽培

農薬に関しての講演を聴講させていただきました。必要以上に農薬について怖いと思っている人が多いのが現状です。
生産性を上げる為の資材のひとつが農薬であり、正しく使った際の安全性は一般の方が考えている以上です。
 
講演中にあった残留基準超過作物とその原因のページには「チャ」は無く、葉菜類果菜類、根菜・イモ類、果樹類、玄米・食用花の順で続き、葉菜類が72%。
その原因は使用基準違反と器具の洗浄不足で57%を占めるとありました。これは使用者(農家、生産者)のミスとなります。
これらのミスは仕方無いではなく、少なくとも注意すれば防げるものです。 
 
農薬に関しての恐怖はどこから生まれるのか?これはわからないから怖いとする部分がその根にあり、ショッキングな話題に振り回されているからなのでしょう。
 
無農薬の食品をといいながら、虫除けスプレーや蚊取り線香を使ったりする姿は知る者からすれば滑稽です。
 
私は有機栽培を否定する訳ではなく、実際に扱い茶の中に有機栽培のお茶も含まれています。それは慣行とは異なるキャラクターのお茶になっていること、生産者も含めて環境負荷が少ない生産であるから大事なことと考えています。
飲む方の安全については有機であれ、慣行であれ必要なことで共に安全でなければ扱う事は出来ません。
 
売る側からすれば無農薬と固執する消費者は実に扱いやすい人たちなのですよ。
 

茶処の名にかけて

2004年に放送された「茶処の名にかけて」(製作:静岡第一テレビ)を見直す機会がありました。番組中の言葉の中で、今なら言わないなと思うフレーズがひとつだけ。

「お茶のいれ手冥利に尽きる。」

シナリオも無いドキュメンタリーでしたのでその時に素直に口をついた言葉だったのだと思います。

自分がお茶をいれる事に一生懸命だったんだなと振り返ります。

私はお茶をいれるのが上手かと問われれば上手でしょう。下手では私の仕事は出来ないので当然といえば当然です。今の私にとって大事なのはお客さまがご自分でお茶をいれて楽しめる事です。私がお茶を美味しくいれる事ではありません。私はモノ売りなのです。

人見知りな自分が接客業をする不思議な縁を感じながら日々を過ごしています。もう会う事が叶わない人達の笑顔に励まされながら。

 

https://youtu.be/HS2SGfhag98

責任の所在

百貨店での販売でご縁が出来て十数年来のお付き合いとなるワインがお好きなお客さま。
山峡や蒼風が好きで、他のところでも山峡などの名前を見かけると買ってみるのですよとのこと。

とてもよくわかるお話です。私もワインが好きで、バーなどのメニューにピノ・ノワールの名前を見かけると注文することがしばしばあります。

でもね、石部さん。品種の特徴がちゃんとしているお茶って本当に少ないのですねと残念そうでした。

そうなのです。ここがワインと比べてお茶の難しいところのひとつです。
ブドウを原料とするワインは果実の段階で香味が異なり、その果汁を原料として製造されR.T.D(レディ トゥ ドリンク 開封すれば直ぐに飲める飲料)として提供されます。

お茶も品種によって確かに生葉の時に味が異なるのですが、加熱と乾燥を主にした製造があり、製品を作る上での変化や影響が遥かに大きいのです。そして、お茶は口にする時に乾物からその成分を浸出させる飲料であり、ワインなどと比べて微味微香のもの。製茶や仕上げの技術差が製品の品質に顕著に現れます。

品種茶の特徴が出ていない原因のほとんどは生産者の技術不足が原因であり、次が仕上げの技術の不足です。この様な製品は品種茶としての販売ではなく、ブレンドなどの原料茶とするのがいいのです。

品種茶として販売しながら、その特徴が出ていなければ意味はありません。
山峡で作れば山峡ではなく、ちゃんと山峡の特徴があるように。

そして、品種茶の特徴が現れていない製品が世に出る事の責任は、生産者や製茶問屋にあるのではなく、販売する者にあります。
お客さまに提供する前に品質を見極めて、売る最前線の者が負うべき事だからです。