nishikien’s blog

お茶に纏わる事柄をつらつらと。

一杯の茶から

某所和カフェにて

「いらっしゃいませ。今回は普段、飲まないだろうと思うお茶をいれました。何だと思います?」
 
私が普段飲まないとすると狭山か、宇治かと呟きながら、口に運ぶ。狭山ではない。

「宇治っぽい雰囲気もあるけれど違う。まてよ、この風味は知っている。清沢(安倍川支流藁科川上流域本山)のお茶に似ている。これはヤブキタではないけれど、ヤブキタの印象も。」
 
「何を言っているのですか。玉川(安倍川上流域)の大棟ですよ。」

試されるような状況で思考が声になっていたようだ。
 
「そうなんだ、確かにもう手元に無いお茶だから私が飲む事は無いからね。ありがとう。」
 
久し振りに飲んだ品種だったので御礼を告げた。しかし、何だろう、このモヤモヤとした感じは。改めて見ると馴染みがあり過ぎる。
 
ちょっと、待てよ。少なくとも品種の風味が産地を連想させる事なんて無い。品種は品種なのだから。
 
脳内で時計の針が一気に逆しまに回る。2007年頃で針が止まった。
地質図を携えながら茶園を回った時の会話へ。清沢の茶園の色を見た時。「ここの土質は同じ品種(ヤブキタ)でも青く見えるのかな。」
 
記憶の針が飛ぶように製茶工場での恩師と工場長の声が過る、「大棟はヤブキタより青いよなあ。」

来歴が稲妻の様に浮かんだ。大棟は大正初期に安倍郡清沢村の篤農家大棟藤吉によって在来より選抜された品種であり、かつては奨励品種にもなった。
 
「これは、ひょっとして清沢にはかなりな面積で大棟が栽培されているという事じゃないだろうか。園地で見ても大棟とヤブキタの差異を特定出来る人は少ないし、ヤブキタが人気となればヤブキタとして扱われただろう。茶園を見た時の青さは土質での色の変化ではなく、そもそも植えられている品種が違うのでは。」
 
であるなら、清沢の茶園の色が馴染みのヤブキタよりも青く感じた事にも納得がいく。そして、何よりも飲み慣れた風味への理由づけとして整合性がある。
 
「誰も興味を持たない話題かも知れないけれど実に楽しいね。」
「本当ですね。」

一杯の茶から紡がれる物語。お茶とは面白いものです。

お茶を手で摘む一番のメリットは何か?

「手摘みのお茶はいいのですか?」と時折、お客様に質問をされます。

「モチロンそうですよ。」と笑顔で答えられればいいのですが、それが出来るほど私は器用ではありません。

「そんなことは無いですね。手でなければ出来ない仕事をして、それが製品に活かされてこそ意味があります。機械で刈ったお茶と出来上がった内容が変わらないなら無意味です。」

例えば、一番茶シーズンにおいて、葉が展開するのに4~5日として、熟度のある三葉は欲しいけれど、三葉から二葉の間の茎はいらないとしたら、三葉+一芯二葉の摘採をとなります。これは畝であれ、何であれ「手摘み」でしか原葉が用意出来ない事になります。
 
手摘みの一番のメリットは作ろうとする製品に対してフレキシブルな事です。
 

手摘みとして申告があって、その内容がハサミ(機械摘採)以下であった場合は残念な手摘みです。ハサミで刈って鮮度のいい状態で製茶した方がいい。手摘みの手間を知っているからこそ、そう思うのです。

21世紀、お茶はいれるモノから、キャップをひねるモノになりました。

21世紀、世の中に出回る「茶」は既に液体が主流になりました。この状況はどう見ても、私にとってチャンス到来です。
 
こうなれば、急須を使っていれる事が大きな意味を持つのですから。

無糖茶系ドリンクの市場規模は、2012年 7,406億3,300万円 (前年比102.4%)、2013年見込 7,584億9,500万円 (102.4%)、2014年予測 7,800億8,500万円 (102.8%)、2015年予測 7,947億2,500万円 (101.9%)。

無糖茶系飲料のリーフの市場規模は、2012年 2,339億8,200万円 (前年比97.8%)、2013年見込 2,307億8,100万円 (98.6%)、2014年予測 2,290億9,700万円 (99.3%)、2015年予測 2,279億3,000万円 (99.5%) と2002年以降、市場全体では縮小傾向にある。

無糖茶系飲料のティーバッグの市場規模は、2012年 1,575億9,600万円 (前年比103.6%)、2013年見込 1,645億7,700万円 (104.4%)、2014年予測 1,694億200万円 (102.9%)、2015年予測 1,816億4,800万円 (107.2%) とプラス成長を続けている。

無糖茶系飲料のその他タイプ (粉末、顆粒など) の市場規模は、2012年 87億2,100万円 (前年比112.9%)、2013年見込 96億200万円 (110.1%)、2014年予測 103億8,100万円 (108.1%)、2015年予測 119億700万円 (114.7%) と1999年以降、拡大している。

中国は烏龍茶の国ではなく、緑茶の国です。

お客さまを含め日本で緑茶の話しをすると、緑茶は日本にしかないと思っている方が少なからずいらっしゃいます。実生活において身近にあり、外国産緑茶と縁がないからかも知れません。製法の違いこそあれ緑茶の最大生産国は中国です。
今更ですが中国は広大です。統計に上がっているだけで茶生産量は約170万t(2012年)、日本は約8万t。生産量は21倍以上。

日本の産地茶園を全部集めたところで中国に比べれば如何に小さなものなのかと思えます。生産量はそのまま力です。製造による差異の出来にくい製品、例えば加工用の粉末などでは勝ち目はないでしょう。

日本茶の価値はやはり「日本茶らしさ」です。広い視点から見おろせば一地方茶に過ぎない事を理解し「日本茶とは何か」を知る事も必要です。この図式はそのまま日本国内にも当てはまります。

多くの人が日本茶として捉えている緑茶はまだ歴史が浅く、現代に到ってやっとスタートラインに着けた位に考えていいでしょう。
背後には先達の努力、研鑽によって培われた財産があり眼前にはそれを活かせる自由な世界が広がっています。

21世紀ほど自由に日本茶を楽しめる時代はありません。そして今、どれだけの人がひと回りした歴史に気づけるか。私達は分水嶺に立っているのでしょう。


日本総面積:約377,900平方キロメートル 
雲南省面積:約394,000平方キロメートル

日本の茶園面積:約460平方キロメートル
雲南省の茶園:面積約3000平方キロメートル
(以上2012年)
※2013年の雲南省茶園面積 約3210平方キロメートル。一年で日本の全茶園面積の約45%も面積が増えている。
2013年「春」の雲南省原料茶生産量は10万1000t

シングルオリジンを冠するのであれば、腹をくくって真面目にやろう。お金の為ならおやめなさい。

コーヒーなどから端を発した「シングルオリジン」という呼び名。ワインのモノポールとも似ていますが、日本人が覚えやすい単語と響きのいい言葉だなと思います。
 
さて、私は販売の実績も含め、日本茶における品種単品や単産地、単園の製品提案に関してはフロントランナーである事を自覚していますが、実はこのカテゴリーの正体は「大手の参入が困難で、参入しても売り上げ的に意味が少ない商品群」です。これは、シングルオリジンやスペシャリティーと冠が付くコーヒーも同じです。
 
茶などは加工度の低い少量生産の工芸作物を扱う商いなので、では生産者からの直仕入れと思いつく方が多く、これまでもそのような動きが見られましたが、私は直仕入れの品を販売した事はありません。製品はほとんどが、単品なのですから合組(ブレンド)は無いのに、必ず『生産者→製茶問屋(仕上げ問屋)→私』の流れです。

勿論、経由する事によって価格は上がります。なぜ、それをするのかとすれば、荒茶を原料とした「仕上げ」とはお茶の製品としての品質を上げる技術であり、日本茶における重要な部分だからです。

「品質の低下に繋がる部品を除けて、再加熱をし香味を向上させる。」仕事が仕上げです。この中には茶以外の異物の除去も含まれます。
 
はっきり言えば、生産者の行う仕上げなどは仕上げとは呼べないレベルです。餅は餅屋なのです。

仕上げによって失われるものもあります。お茶は触るほど、道具を通すほどに形状が小さくなってしまいます。これはいつも仕方がないのだけれど勿体ないと思ってしまう部分です。(ほいろの火入れでは不十分であったり、問題があります。)
仕事には失敗のリスクが伴います。生産量が少ない荒茶であれば、火入れに些細なミスがあればそれでアウトであり、販売品は一年間無しとなりかねません。
 
それらを鑑みてもやはり「仕上げ」によるプラスの方が多いが結論です。
 
近年、気候変動の影響や施肥など様々な事柄が絡み合い、原料となる荒茶の質が変わり、仕上げの必要性がさらに増して来ています。この事に気がついていない茶業者は不勉強であり、経験と思慮不足です。
 
シングルオリジンは真面目に取り組めば取り組むほど、リスクが大きく売り上げには上限がある商品です。一年や二年の物珍しさで販売するのは生産者に対しての裏切りであり、いいとこ取りなどは卑怯者の方便に過ぎません。日本茶の産地は日本であり、茶は永年性の農作物です。

その点を踏まえ、腹をくくって、性根の座った商いに臨まれることをおススメします。自らをお茶屋だとするのであれば。

特別扱いなんてしちゃダメなんです。

お茶に限らず、物事を考える時に自分と関係のある品を闇雲に特別扱いしない意識はとても大事です。

自らのアイデンティティーにも繋がる部分なので、実は難しい事でもありますが、それをしなくては学びにはなりません。

平らに考え、その上でどう違うのか、その理由は、何故なのかなどを追う事を常に心構えとする。それが出来れば、何処の何であれ「良い品は良い」と判断が出来るようになり、そして、飾り言葉に惑わされる事も無くなっていきます。

分かりやすい情報はただの近道であって、物事の一面しか語っていない場合が多いことを常に忘れずに。

それを踏まえた上で、私がお茶について実に面白いなあと思うのは、製茶や保管、お茶をいれる事を含めてシンプルな事象や物理現象の積み重ねである事です。そして、それ故に別のモノで起きた事象との共通性を見出せる部分です。
お茶は実に楽しいもので人生を豊かにするヒントに溢れています。

ペットボトルのお茶が売れなくなっても売上なんて上がりません。

「お茶はリーフで。」
「ペットボトルのお茶ではなく急須で。」

一般のお茶好きの方からの言葉ならまだしも、茶業者から声高々に語られると少々不思議な気分になります。

ペットボトルなどドリンクの茶系飲料の原料は言うまでも無く「茶」です。大手メーカーなどのコピーを見れば国産茶葉100%使用ですから、原料も日本産であり、売り買いは日本の業者間で成立しています。

数年前に飲んだペットボトルは、このお茶よりも美味しくないリーフもあると素直に思える品でした。このレベルがコンスタントになったら利便性では無い何かを伝えない限り、リーフや急須を使って飲む理由は無くなるでしょう。

茶価低迷の理由のひとつはペットボトル用の原料茶です。買い手の必要性からより安価な価格帯の茶が大量に必要となった結果ですが、その価格に対応出来ている生産者であれば全く問題はない事です。この図式はおいそれとは覆る事はありません。ある一定の品質であれば、原料手配は出来るだけ安くと動くのは当然だからです。
 
ドリンクの茶を敵視する茶業者の多くは、それが売れる事によってお茶本来の楽しさ、面白さが失われる事を危惧するのではなく、自らの売上が下がると考えてなのが透けて見えます。
そもそも全く別の商品なので、売り上げには影響しませんし、仮に影響があったとしたらドリンク以下の茶を販売している証明です。
 
ドリンクの茶系飲料によって裾野が広がり、急須を使ってまでいれようと思えるお茶とその時間の楽しさの発信。そして、使ってみたいと思えるような茶器や急須の提案が出来る時代が既にやって来ている事に皆さんが気づけるといいなと思います。

さて、最後に。製造から流通までに時間の掛かるドリンクの茶系飲料はどんな値段であれ、良茶を手ずからいれた茶には美味しさも含め、絶対に勝てません。これは絶対にです。それを具現化し揺るがないものとするのも私の仕事です。